2017年10月8日、アレキサンドリアで行われたサッカーのエジプト対コンゴ戦終了の瞬間、エジプト人たちはワールドカップ出場を祝す歓喜の中にいました。自宅に居ても、近くのマンションのあちこちで鳴り物を鳴らしたり声を揚げたりするのが聞こえてくるほどでした。エジプトは実に28年ぶりのワールドカップ出場を決めたのです。

この日、昼過ぎからカイロ市内のあちらこちらで応援グッズを売る露店が出ました。大小さまざまな国旗を初め、国旗の赤・白・黒3色を使った帽子、かなり大きな音の出るホーンなどが売られ、通りがかりの人や車に乗る人が応援グッズを買い求めていました。

 

今回のワールドカップ出場を決めた試合では、44歳になるイサーム・エル・ハダリがゴールキーパーを務めました。彼にとってもワールドカップ出場は実に長い間の夢でした。ハダリは2010年にエジプトの名門サッカーチームを離れてから、エジプト代表として試合に出る機会は殆どありませんでしたが、2017年度のアフリカ王者を決めるアフリカネーションズカップ予選から代表試合に復帰して出るようになり、エジプトの準優勝に貢献。さらにこの大会での最年長プレーヤーの記録を更新しました。チームでは親分的な存在のように見受けます。

そしてもう一人、ワールドカップ出場へ大きく貢献したのがモハンマッド・サラーです。(注:アラビア語では“サラーハ”が実際の発音に一番近いですが、日本では“サラー”と表記されている場合が殆どですのでこの記事でも“サラー”と表記します)

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写真中央がハダリ。向かって右、背番号10番がサラー。

2017年からイギリスのリバプールFCに所属して大活躍し、2017-2018シーズンのPFA年間最優秀選手賞、プレミアリーグ年間最優秀選手賞などを受賞しています。私はサッカー選手の実力を判断できませんが、エジプトのチームでは図抜けた実力の持ち主の様です。

リバプールはサラーの活躍で欧州のクラブチーム王者を決めるチャンピオンズリーグにおいて決勝へ進出しました。しかし2018年5月26日に行われたレアルマドリードとの決勝戦で、サラーは相手チーム選手と縺れて転倒し、肩を強打してしまうのです。まさかの途中交代を余儀なくされ、涙でピッチを去ることに。そしてチームも優勝を逃してしまいました。サラーの心のうちには決勝戦を戦い抜けなかった悔しさと同時に、一か月後に迫ったワールドカップまでに肩は治るのだろうかという不安が当然あったはずです。

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サラーの活躍でエジプトでも欧州でのサッカーを見る人が増え、リバプール対レアルマドリードの決勝戦も多くのエジプト人がテレビの前で応援していました。しかしサラーが負傷により交代。ワールドカップへ出場できるのだろうかという懸念がエジプト人たちの頭をよぎったことでしょう。

そのワールドカップは6月15日にロシアで開幕し、開幕初日にエジプトは対ウルグアイとの初戦を迎えます。サラーはベンチに居ました。2戦目からの出場に備えるという報道でしたが、本人にとっても辛い日だったに違いありません。エジプトは善戦及ばず0-1で惜しくも敗戦。第2戦は対開催国ロシア。サラーは出場しましたが実力及ばず1-3。でも一点を挙げ一矢を報いました。第3戦は対サウジアラビア。サラーの得点で先制したにも拘らず1-2で残念ながら初勝利を挙げることができず、グループリーグでの敗退が決まりました。しかしこの日はハダリがゴールキーパーを務め、ワールドカップ出場最年長記録を更新したのです。45歳161日での出場でした。できればチームの勝利で祝いたかったですね、この偉大な記録を。

28年ぶりのワールドカップ出場で勝ち星を挙げられずに敗退しましたが、サラーはまだ26歳で次回のワールドカップを視野に入れていることでしょう。強豪ぞろいのアフリカにあって代表権獲得も大変な事ですが、次のカタール大会へ向け頑張ってほしいです!

(2018年8月記、一部2017年11月長野市民新聞寄稿部を含む)